ハワイ滞在、9日目 ホノルルマラソン当日

大会当日。
ひたすら人の量にげんなりしながら、
みたことのない小さな虫が足元をゆっくり這っていくのを眺めていた。
多分そこ動いていたら、あと2,3分後に踏み潰されるぞと、
まあ絶対に伝わらない忠告をブツブツつぶやいていた。
それなりに緊張していたと見える。

花火が夜空を飾り、いよいよか、と思ったが中々目の前のラインは進まない。
まあ、予想通りではあった。
自分が走り始めるために待っていたのは3時間〜4時間のラインの先頭。
これより前に行く人は3時間を切ることを目標にしている人たちというわけだが、
明らかにその体でサブスリーはないだろ、いや完全に歩く気満々でしょといった
ご一行が誰だかわからないがガイドみたいな人に先導されて、
「はい、前に行きます!」の掛け声でどんどん自分より前に行くのを見ていたからだ。
案の定、走り始めて思ったのは、
眼の前にいる人のペースが明らかに遅い、ということ。
それも一人や二人でなく、ほぼ大半がそれ絶対3時間でゴールするつもりないだろ的なスピード。
そのため、走りづらいことこの上なく、
無理にコースの中を追い抜くわけにもいかないので、わざわざ路肩を走ったりして
イライラしながらパスしていった。

1時間もすれば、さすがにまわりは同じペースで走っている人ばかり。
ダイアモンドヘッドの麓のなだらかな坂道を走っているときはあまりの暗さに、
走りづらさを感じたが、それも今考えれば一瞬の出来事だった。
よくこんなところを走らせるなと思う、急な坂道があったりはしたが、
概ね走りは良好で、ハーフマラソンの距離まで毎時13キロのペースは維持できていた。
これはサブスリーは無理でもサブ3.5はイケるんじゃないか、
そんなふうに考えていた時期が僕にもありました、はい。

2時間も過ぎ、高速道路の区間を走り終えて、
道沿いのボランティアの人達から「もうすぐで折り返し」という言葉をもらった当たりで、
気が緩んだのかもしれない。
突如足が動かなくなった。というより上がらなくなった、という感じか。
水は適宜とっていたし、ハンガーノックには早すぎるタイミングだと思ったが、
30キロを超えた当たりで、走りを止め、休み、走りだしては歩き、また止まりを繰り返していた。
頭の中で必死で考えていたのは「何とかしてサブ4だけは達成したい」だった。
歩き出した時点でそれを考えていたのだから、もう負け試合は確定的だったのだが、
それでも格好のつく負け方とそうじゃないものがあると思った。
頭の中で電卓を弾き、10分あたりどれくらい走れば…を考え続けていた。

今でも不思議なのだが、3時間半で39キロまでいつの間にか進んでいた。
前半でためた貯金が思いの外、大きかったということなのだと思うのだが、
よくもまああの遅い足並みで1時間10キロ近く走れたものだ。

そして最後の20分。
3キロを、腕時計の距離とにらめっこしながら、だましだまし走った。
頭の中でサブ4は達成できると分かってはいたが、ゴールラインを切るまで、
そのことに確証を持てなかった。
歩いては休み、気がついたように走りだす。
このとき目の前を走っていた、アフロヘアーのかつらを被った日本人男性と
めっちゃ蛍光イエローの目立ったランニングウェアの日本人男性。
この二人を目印に自分の走りのペースを何とか保てた。

ゴールゲートが見え、やったと思った瞬間時計をみた。
これで終われる。
それが正直な気持ちだった。
まわりのランナーがどんどん自分を追い越していく中、
自分には走る体力はほとんど残っておらず、悔しながらも
それを見ていることしか出来なかった。
最後くらいは、とかろうじて走るていを演じゴール。
「よくやった!」というサポータからの声がどこか耳に痛かった。
はたして「やった」といっていいのだろうか。
そんな感じだった。

タイムは時計上、3:52:30。

火照った体を設置してあるシャワーで冷やし、
何度もツリそうになる足を引きずりながら、気力でマラサダを食べた。
腹がそこまで減っていなかったからかもしれないが、
お世辞にも美味いといえるシロモノではなかった。

いろいろ催しもあったのかもしれないが、
とりあえず寝たい、の一心で家へ40分近くかけて帰った。
その道の途中で、完走したと思われる日本人のおじいさんがレゲエちっくな外国人に
「何分でゴールしたんだ」と声をかけられていたものの、答えられずにいたので、
「タイムを聞きたがってますよ」と翻訳したら、「3時間40分」との答えが返ってきたので、
答えを伝えるのもそこそこに、「え、マジッスか早いっすね」と敗北感たっぷりのコメントしたことを
ここに記しておく。

家に帰って、まず最初にホームステイ先のお母さんに電話。
4時間を本当に切るとは思っていなかったらしく、本当に驚きながらも
「すごいじゃん」と褒めていただいた。
これで焼肉食べ放題が確定!
そこからは寝て、お昼ぐらいに起きたが食事をする気にもなれず、
ただボーっとしていた。

夕飯は約半年ぶりにたべる焼肉。
ひたすらにうまかった。
肉質がどうだとか、焼き加減がどうだとかはこの際どうでもよくて、
やっぱり日本の食事は抜群にうまいんだなと実感。
ビールでIDを確認されることに驚きながらも、最高の食事を堪能した。

そんな一日